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To collectの世界

 

 

目の前には娘と友人のさっちゃんがお互いにおもちゃのキッチンで料理を作っている。

狭い自宅には不釣り合いなほど大きい木製のキッチンは娘の城だ。

さっちゃんの家族と私の家族は仲が良く、何度も家族で食事をしたり、どこかに出かけたりと家族ぐるみで付き合っている。

娘とさっちゃんは同じ保育園の同級生であるから、とても仲が良い。

 

「見て。カレー作った。」

三歳になった娘がおもちゃの宝石をお皿一杯に敷き詰め持って来た。

 

「おいしそう。ありがとう。」

そう言って食べる真似をすると娘は満足したようにさっちゃんにも、

「食べてー。」

とご馳走を振る舞った。

 

「おいしいね。」

とお互い満面の笑みで言い合っている姿に思わず頬を緩める。

 

「さっちゃん、パン焼いたよ。」

「おいしいね。これ、ケーキ!」

はしゃいで遊んでいる様子を写真に収める。

2人の屈託のない笑顔に幸福感を噛み締めた。

その後も仲良く遊んでいる2人と一緒に楽しい時間を過ごしていると、家のチャイムが鳴り、さっちゃんの両親がえに来た。

「ありがとう。本当助かった。」

と格別な笑顔で感謝された私は、

「いいよ!明日うちの子もお願いねー。」

と我が子の頭に手を置いて言った。

 

家に上がって貰い、お土産のケーキをみんなで食べた。

3年ぶりの2人きりのデートは少し緊張し、最初は少し無言だったと言う話を聞き、思わず笑い声を上げてしまった。

しばらく今日撮った娘達の写真を見ながら談笑し、帰る時にさっちゃんを抱っこしている姿をまた写真に収めた。

帰る時、娘が「まだ遊ぶー。」と泣き始めてしまったが、私も娘を抱き上げ、ゆらゆらと左右に揺らすとすぐに眠った。

起こさないようにゆっくりと寝かせるとスマホを手に取り、SNSを開き投稿する。

 

先程のさっちゃん家族の写真に、

 

 To collect業務達成報告。

 〇〇様 ベビーシッター 〇〇様指名 1108  さっちゃん、また来てね  tja@mwj...  

 

と言う投稿内容でSNSにあげた。

 

すやすやと眠っている娘の横に寝そべり、軽く頭を撫でると娘はおでこにしわを寄せるように眉を上げた。

ふっ。と小さく笑い、2年前では考えられないような心の凪(なぎ)に少し戸惑った。

 

「疲れてんの!」

 

怒号が家中を包み込む。

 

少しくらい家事とか子供の事とか手伝って欲しいと私が言った時に言われた言葉だ。

事実、朝早くに仕事に行き遅くまで私達のために働いてくれているのはわかっている。

長い間、休職して育児などを頑張ってくれたのを取り戻そうと身を粉にしてくれているのもわかってはいる。

でも、こちらにだって言い分はある。

 

「こっちだって仕事してるし慣れない育児で疲れてるよ!」

 

「仕事ってずっと座ってパソコン打つだけじゃん!」

 

「でも働いていることには変わりない!」

と大声を出したが、専門的な知識や語学を必要とする仕事をしている相手の給料には遠く及ばない賃金で働いているのもわかっている。

 

「はぁー。ちょっとくらい休ませて。」

呆れた様子で発した言葉にさらに感情を煽(あお)られ、

 

「こっちに休む余裕があるように見える⁉︎」

と感情に任せて大声を張り上げると、

「もぅいい加減にして。」

そう言って自室に入っていった。

 

私は相手に聞こえるように舌打ちをし、(娘が大声で泣いているのに、よく自分の部屋に入れるな。)と嫌悪感を抱きながら、娘を抱き上げ、小さな声で、

 

「ごめん。」 と呟く。

 

子供の前で喧嘩をする事は悪影響だとTV番組で見たが、とてもじゃないが、そんな余裕はない。

ここ最近はこのような喧嘩が日常茶飯事である。

朝から遅くまで仕事でいない相手に合わせて、娘の保育園に迎えに行けるように、仕事の部署を変えて貰った私が出来る限り家事をする事になっている。

しばらく立ったまま抱いているとすやすやと寝息を立てて眠りについた。

まだ家事が残っている事は重々わかっていたが、ここからもうひと頑張りする気力は残っていなかった。

 

スマホを手に取り、SNSを開く。

 

たくさんの友人達の旅行の写真や飲み会の様子の写真などを眺めていると少しでもその場に行っているような、少しだけでも、現実から逃れられるような気分になる。

「何だこれ?」

思わず声を発していた。

 

自分で作った手料理の画像、友人と遊びに行ったことや、旅行の思い出、子供や動物の癒し系動画に仕事の愚痴など、そんな投稿ばかりが映し出されている画面には、この投稿はかなり異質な物に見える。

段ボールの山を背景に三人の男性と二人の女性が戦隊モノのヒーローのようにポーズを取り楽しそうに写っている写真と、

 

 TO collect業務達成報告

 エネルギー資源搬入 157  見よ!この段ボールの山を!!  rdejmgt229

 

と言う投稿内容が記されていた。

 

戦隊モノのポーズに統一性はなく、それが酷く滑稽で思わず「ふっ。」と小さく笑ってしまった。

真ん中に写っている男性は私の友人だ。

必要以上に胸を張り、弓を引くときのような両腕の形、両手の先は蛇の頭のように指先が揃えられている。

その姿は北斗〇拳の伝承者のようで胸に七つの傷があるんではないかと思った。

写真自体はそれほどの違和感はなかったが、私が気になったのは投稿内容の方である。

 

「To collect?業務?」

 

何度読み返しても頭から疑問が消えることはなく、タグを検索してみると、様々な写真が映し出された。

子供たちの笑顔の写真や、おばあちゃんと写真を撮っている人、何かの施設で作業している様子やゴミ収集車の前で格好をつけている写真、明らかに仕事中とわかる物もあれば、ただの投稿写真のように見える物もある。

ますます疑問は深まるばかりで、最適解は見つからない。

投稿内容には「業務達成報告」と書かれているため何かのサービスである事とペットボトルや段ボールなどのゴミの写真が少し多いと言う事だけは理解できたが、仕組みは全くわからないので、友人に「To collectってなに?」とDMを送ったが、返事を待っている時には1日の疲労感に抗(あらが)えず、意識を失うように眠ってしまっていた。

 

朝6時に起きると、友人から着信が入っていたがかけ直す時間はない。

気になるが今日も忙しい朝が始まった。

洗面所に向かっていると、自室に篭っていた分からず屋がもう出掛ける所だった。

小さな声で、「行ってきます。」と言う言葉が聞こえたが、私は無言でコクリとうなずくだけで、自分の支度にとりかかった。

娘の着替え、朝食の準備、洗濯物と次々と降ってくる仕事をこなした。

朝は戦場である。

娘を保育園に送りいってらっしゃいのハグをし、会社前のカフェに到着してやっと一息つけるのである。

それも束の間の安息だが、この時間がないと今の私の身はもたない。

店内の緑に癒されていると、コーヒー豆の香りが鼻腔を擽(くすぐ)る。

ピアノのBGMに目を閉じ、温かいコーヒーを口内に流し込む。

外の景色は忙しなく動いていて、(頑張ってるのは自分だけじゃない。)と確認する作業はもう習慣の一つにすらなっている。

苦味が口から消える前に会社へと歩き出す。

 

与えられた仕事をただ漫然と作業しながら昨夜の投稿を思い返していると、つい先日読んだ本の、人間の欲求を5段階で表す「マズローの欲求5段階説」を思い出していた。

下から生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求をピラミッド構造で表しており、人間の欲求は、ピラミッド下位の低い欲求が満たされると、ピラミッド上位の高い欲求へ上がっていくと言う物だった。

そしてSNSが満たすと言われている承認欲求であるが、私がいま満たしたいのは、社会集団に所属してより安心感を得たいと言う気持ちと、もっと自分を受け入れてくれる親密な他者ができるかもしれないと言う、社会的欲求だ。

 

(なるほど、よくできてるな。)と思った。

 

その背景にはダラダラと何のためになっているのかもわからない、今の仕事に対する不満や劣悪な夫婦関係がある。

定時で仕事を終え、娘を迎えに行く。

私を見つけると、笑顔を見せながら拙(つたない)い足取りで私の足にしがみついた。

抱き上げて抱きしめると私の肩にコテンッと頭を預けてくる。

仕事の疲れなど吹き飛ぶほどの破壊力がこの子にはある。

この子の幸せだけは絶対に壊してはいけないと心から思った。

 

漠然と何か行動しないと、私自身が変わらないといけないのはわかっていた。

わかっていたが、

「私なんて。」「どうせ。」「やっぱり。」

といった結末を恐れて何もできない自分の無力さをこれほど憎んだ事はなかった。

保育園の先生への挨拶もそこそこに自宅に急ぎ、友人に電話をかけた。

無機質な電子音が私をより急かせる。

 

「はい。どうしたー?」

とのんびりとした口調で友人は電話に出るとガヤガヤと言う後ろの音が気になった。

「いま、大丈夫?」

私の決心が揺らがない。

 

「今」話を聞きたかった私は少し深刻な話しがあるかのような低い声で言った。

「ちょっと待って。」

あちらも気になったのか、真剣な声に変わり少し安堵しながら、

「わかった。」と返す。

 

「ええよ!」

と周囲の雑音がなくなり明るい声で話した友人に、

「To collectってなに?」

不安と期待の入り混じったなんとも言えない声色で私は言った。

 

「うーん。みんなが社長になっとる感じかなぁ?」

 

全く意味がわからず慌てて、

「どうゆうこと?」と返した。

 

「社長って、色んな業務がある中で対価とか見て自分で仕事を選べるやん?」

 

「まぁそうだね。」

 

「やりたくない事とかやりたくないけど対価が高いとか、色々考えるやろ?」

 

「うん。」

 

「それを個人がみんなでするって感じ!」

 

「うーん。いまいちピンとこないなー。みんなSNSに投稿してるのは?」

 

「それも業務の一環やな。通常の時給が1000円やとしたら、SNSにあげたら、1200円くらいになるイメージ。まぁみんなでこのサービスを盛り上げようって感じやな。」

 

「そんなに時給いいの?」

 

「だから、自分で業務みて、対価見て、自分で決めれるんやって。」

 

「なるほどね。どんなんが多い?」

 

「色々あるよ。ゴミ関係とか、買い物代行とかベビーシッターとか?何か地元の人とか地域のためにやる事が多いな。」

 

「へぇー。みんなしてるの?」

 

「まぁぼちぼちやな。今もTo collectのメンバーで飲み会してんのよ。みんなで、昼から飲んどるわ。」

 

「え?1日業務じゃないの?」

 

「隙間時間とか暇な時にできる業務もあるから、みんなで時間合わせてやれる業務を選んだんよ。」

 

「え、楽しそう!」

 

「今日は本業が休みやったから、午前中だけ業務やって昼から自由って感じ。」

 

「めっちゃいいね!」

 

「友達とかも増えるし、何か楽しいよ。やってみれば?」

 

「どうやってすればいいの?」

 

「SNSから専用のホームページいってみたらわかるよ。」

 

「やってみる!」

 

「時間合ったら、一緒に働こうで!」

 

「了解。」

 

と言って電話を切るとすぐにホームページに飛び、簡易的な登録を済ませ、手順の通りに作業すると、SNSのアカウントに到着した。

 

 

 〇〇地区   エネルギー施設エネルギー資源搬入 168   9:00〜10:00  詳細はDMにて。

 

他にも多くの案件業務の投稿が画面には映し出されている。

 

 

 〇〇地区 配達 収集 169  〇〇様 引越しの手伝い 170

 

 〇〇地区 TO collect place 〇〇店 従業員171

 

 〇〇様 買い物代行 172

 

 collector イベント リアル鬼ごっこ 賞金〇〇

 

 〇〇様  庭木の簡易的な剪定 173

 

 〇〇店 〇〇社簡易作業 作業員  〇〇人 174

 

 〇〇様 ベビーシッター 〇〇様指名 175

 

 

「なるほどここから選択すればいいのか。」

と納得する。

 

確かに隙間時間でできるものも多い。ふと時計に目をやると夕食の準備をしなければ行けない時間で、慌てて家事にとりかかりる。

全ての家事が終わったのは、午後9時頃で子供を寝かしつけながら、(夫婦間の問題も解決しないと。)と考えていると、丁度、玄関で音が鳴り、いつもより早い帰宅にあちらも思うところがあるように思った。

 

「おかえり。お疲れ様。」

なるべく、感情的にならないよう丁寧に言葉を選んで言った。

いつもなら何の挨拶もなく、夕食の準備をし、娘の所に向かうのだが、今日はそうしなかった。

 

「ただいま。」

私の言葉に少し驚き、少し安堵したように呟いた。

私が夕食を準備しようとすると、

「自分でやるよ。」と自分で夕食を温め直し食べ始めた。

やはり、(このままではダメだ。)と相手も思っている事を確信した私は、躊躇う事なく、「ちょっと副業しようと思う。」と告げた。

 

驚いた顔でこちらを見ていたが、

「何するの?」と食事を止め、真摯に話しをしようとしてくれている姿に(連日の喧嘩にもちゃんと意味はあった。)と心底思った。

 

サービスの概要を伝えると

「すごいね、それならできそうだね。」

と賛同してくれ、久しぶりに夫婦間で穏やかな会話ができている事に自然とモチベーションが上がっている事を実感した。

 

次の日には試しに空き時間で出来る、友人の子供も一緒に保育園から自宅に送る案件や休日には、知っているおばあちゃんの買い物代行の案件など、地元の誰かのために行動する事はとても気分が良い事だった。

 

「ありがとう。助かった。」

と言われるのは、日々の仕事や家事では得られない喜びを感じることができた。

仕事を有給で休み、高単価な業務にも挑戦してみたが、きちんと指導を行なってくれる作業員の人もいて、安心して業務に取り組めた。いくつかやっていくうちにだんだんと仕組みに慣れ、自分で考え、自分で取り組み、誰かの助けになっていると言う実感は「自分はこうありたい!」という、人間の最高位欲求である、自己実現欲求を少なからず満たしてくれるものでもあった。

「今日はこんな事したよ!」と言う夫婦間で共通の知人の話しや娘の友人の話し、サービス内で知り合った友人の話しなど、会話も増え、関係は明らかに改善されて行った。

 

「仕事を辞めて、To collectだけでやっていこうと思う。」

と伝えた時には

「それがいいと思う。何か、このサービス始めてから明るくなったし!こっちも、できる時はサービス使ってみるよ!」

と快く承諾してくれた。

 

元よりそんなに高い給料は支給されていなかったことも相まって、1ヶ月後には会社をやめる意向を会社に話し、TO collectだけで生活するようになった。

働くも働かないも自由だ。

子供を預けている内に午前中だけの高単価な業務に取り組むだけで、懸念していた金銭面はあまり変わず、(午前中だけなのに…。もっと早くこのサービスに出会いたかった。)と思った。

時間に余裕を持つ事が精神的な余裕に繋がり、家事や子供との時間を自分で確保できるサービスの仕組みは私にとって本当に救いだった。

 

「あの頃は大変だったなぁ。」

さっちゃんと遊び疲れ、すやすやと眠っている娘の頭を、もう一度ひと撫ですると、少し目を開いた。

「あっ。」と少し後悔したが、またすぐに目を閉じホッとした。

 

「娘のため」を思い行動した事がいつの間にか自分を豊かにしてくれている事にいま気づいた。

「子は親を映す鏡。」と言う言葉があるが、娘は夫婦関係が回復してから、本当によく笑うようになった。

あの時行動してよかった。

新しいことにも積極的にチャレンジしようと生き方、考え方も変わった。

もう、退屈な仕事を漫然とこなし、貴重な時間を奪われ続けるだけの人生には戻れそうもない。こんな田舎も便利な世界になったものだと私は思った。

いまでは、「どんな仕事をしているのか?」ではなく「何をして生活しているか?」と言う質問に変わっている。

 

こんなサービスを作ったのは誰だろうとふと考えた

 

リンクをタップして代表挨拶を見てみると、

 

『私は「何をしたいんですか?」と聞かれたら「当たり前を構築したい。」と答えます。』

と書かれていた。

 

今では、世の中の主婦や私のような主夫の当たり前になっている。

妻も近々、専門的な知識や語学力を活かせる事業をTo collectのサポートを受け独立する予定だ。

明日、サービスを利用し娘を預けて4年ぶりに妻とデートに出かける。

愛らしい寝顔を眺めながら、明日は何を着ていこうかなとぼんやり考えている。

 

「ブロックチェーン」

 

あなたのアイデンティティはもはや、企業の道具ではなくあなた自身の武器になるのだ。誰かに仲介してもらわなくてもデータがそれを教えてくれる。人々はもはや無力な受信者ではなく、アクティブな発信者となる。

対等なコミュニケーションが世界を満たし、古くさいヒエラルキーは滅びて、どんな小さな村に住んでいてもグローバルな経済で活躍できるようになる。

人の価値を決めるのは肩書きではなく、行動だ。世界はもっとフラットで、柔軟で、流動的で、実力が評価される場所になる。そしてテクノロジーは、少数の裕福層だけでなく、あらゆる人を豊かさをもたらせてくれる。

(ブロックチェーン・レボリューション引用)

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